大判例

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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)150号 判決

(争いのない事実)

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 第一引用例及び第二引用例に本件審決認定のとおりの記載があり、本願発明と第一引用例及び第二引用例との間に本件審決認定のとおりの一致点及び相違点があることは、原告の認めるところ、本件審決は、本願発明と第一引用例及び第二引用例に記載された事項との右相違点についての認定判断に当たり、本願発明の作用効果が生ずる理由について誤つた理解をしたため、本願発明をもつて第一引用例及び第二引用例記載の事項並びに周知事項に基づいて容易に発明することができるものとの誤つた認定判断をしたものであり、この点において違法として取消しを免れない。すなわち、

前示本願発明の要旨に成立に争いのない甲第三号証の一(願書並びに添付の明細書及び図面)、同号証の二(昭和五四年一月二四日付手続補正書)、同号証の五(昭和五七年九月六日付手続補正書)及び同号証の八(昭和五八年二月二八日付手続補正書)を総合すると、本願発明は、磁性体の吸着保持に好適な吸着用磁石装置、特に、磁気回路ブロツク内に回転可能に収容された永久磁石の回転操作によつて吸着及び離脱のための切換操作がなされる吸着用磁石装置に関する発明であるが、従来のアルニコ磁石が組み込まれたこの種の吸着用磁石装置では、消磁から励磁に至る磁石の回転操作に際し、ある特定の操作角で磁力による強い抵抗を受けるため、軽快で円滑な切換操作が困難であるという欠点があつたところ、本願発明は、この欠点を解消し、消磁から励磁への切換操作を軽快かつ円滑になし得る吸着用磁石装置を提供することを目的として、その要旨のとおりの構成(特許請求の範囲の欄の記載と同じ。)を採用したもので、これにより所期の目的を達成し、消磁から励磁への切換操作に際して従来のように強い衝撃を受けることがなく、これにより磁気吸着力の低下を招くことなく軽快かつ円滑な消磁から励磁への切換操作が可能となるという作用効果を奏し得たもので、その特徴は、磁気ブロツクの内腔内に配置された磁石の回転操作に際して磁力により強い回転抵抗を受けるアルニコ磁石は大きい可逆透磁率を示し、前記回転抵抗が磁石の可逆透磁率に依存することを見いだし、磁気作用を有する一対の磁性部材及び該磁性部材間に配置された非磁性部材を備える磁気回路ブロツクの内腔内に回転可能に配置される永久磁石として、前記内腔の内径にほぼ等しい外径と円形又はほぼ円形の横断面形状(別紙図面(一)第1図参照)とを有する可逆透磁率の小さい磁石(例えばフエライト磁石)を用いたところにあることが認められる。

ところで、原告は本件審決が、本願発明の奏する右の作用効果をもつて当然に予期し得るものと認定判断した点を争うので、検討するに、本件審決の右の判断は、従来のこの種の吸着用磁石装置において回転抵抗が大きいのは、これに用いられるアルニコ磁石のような可逆透磁率の大きい磁石材料からなる永久磁石の空隙に対する吸引力の変化率が大きいことに由来するものと理解し、回転抵抗を引離し抵抗と同一視した認識に立脚するものであることは、本件審決理由の要点に照らし、明らかである。しかしながら、前認定の事実によると、本願発明が対象としている本願発明の第1図にみられる吸着用磁石装置においては、永久磁石の表面とその永久磁石が配置される磁気回路ブロツク内の内腔の壁面との間隙ないしは間隔は、常に一定であり、消磁状態から励磁状態へ永久磁石を回転操作することによつてそれが変化するものとは認められないから、これにより吸引力の変化が生じるものとは到底認められない。のみならず、前掲甲第三号証の一、二、五及び八によれば、本願発明の第4図には、消磁状態から励磁状態への回転磁石の回転操作中のその回転磁石が磁力によつて受ける回転抵抗と回転操作角との関係がグラフによつて示されており、これによれば、可逆透磁率の大きいアルニコ磁石の場合には、操作回転角が大きくなるにつれて回転抵抗が大きくなり、約三五度のところで回転抵抗が最大となり下降するが、約五〇度で再び上昇しており、可逆透磁率の小さい磁石を回転磁石とした場合には、回転抵抗の数値は、終始、〇・六二五Kgcmのところにあることが認められるところ、このような第4図に示された回転抵抗の数値の変化、特に「ある特定の操作角」(アルニコ磁石の場合、約三五度の操作角)に限つて強い回転抵抗を受ける現象は、被告が主張し、本件審決が説示するような永久磁石の表面とその永久磁石が配置される磁気回路ブロツク内の内腔の壁面との間隙ないしは間隔に対する吸引力の変化の大小によるものとの理解によつては、これを合理的に説明することはできず、また、そのような理解によると、本願発明が解決すべき課題とする、ある特定の操作角で磁力による強い回転抵抗を受けるため、軽快で円滑な切換操作が困難であるという現象を生じる余地がないと考えられる。そして、かえつて、成立に争いのない甲第八号証の一(「吸着用磁石装置における永久磁石の可逆透磁率と回転抵抗との関係」)及び第九号証の一(「マグネツトベースの回転抵抗についての解析」と題する昭和六三年電気学会全国大会講演予稿)によれば、回転抵抗は、永久磁石の空隙に対する吸引力の大小によるものというより、回転角の変化に伴う永久磁石の磁極面での磁束分布の粗密の発生を主たる要因として生じるものであり、磁束分布の粗密の程度は、磁石材料がもつ可逆透磁率が高いものほど著しく、その結果、可逆透磁率の高い永久磁石の回転抵抗は大きく、可逆透磁率の低い永久磁石は回転抵抗が小さいことを窺うことができる。もつとも、右にみた回転抵抗の発生する根拠については、本願発明の明細書に何ら言及されるところなく(なお、このこと自体は、本願発明の発明性に影響を及ぼすものでないことは多言を要しない。)、また、上掲甲号各証の性質に照らして、一般的に承認された見解であると断定することはできないとしても、十分に合理性のある理論付けであると認められ、右認定のような理論付けを覆し、被告主張の見解を肯認させるに足りる証拠はない。

そうすると、本願発明の吸着用磁石装置における回転抵抗(回転力に対する抵抗力としての磁気作用の大きさ)は、回転磁石の磁極面における磁力線の密度によつて決定されるものとみるのが合理的であり、これと異なり、回転抵抗をもつて永久磁石と磁性部材部分との非磁性部材を介しての間隙ないしは距離の増大に伴う吸引力の変化と捉える見解を立論の根拠とする本件審決のこの点の判断は、回転抵抗を生ずる要因についての見解を誤り、ひいて誤つた判断を導いたものといわざるを得ず、これが本件審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、本件審決はこの点において違法として取消しを免れない。

(結語)

三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があることを理由に、本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由があるものということができる。よつて、これを認容することとする。

〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

磁気作用面を有する一対の磁性部材および該磁性部材間に配置された非磁性部材を備え、円形の横断面形状を有する内腔が形成された磁気回路ブロツクと、該磁気回路ブロツクの前記内腔内に該内腔の中心軸線に一致する軸線を回転軸線として回転可能に配置され、前記磁気作用面を励磁および消磁状態におくべく回転操作される永久磁石とを含む吸着用磁石装置であつて、前記永久磁石は可逆透磁率の小さい磁石材料からなり、前記永久磁石は前記内腔の内径にほぼ等しい外径と円形またはほぼ円形の横断面形状とを有することを特徴とする吸着用磁石装置。(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

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(以下省略)

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